超人戦争
「ゼノンよ」
 二十一世紀の今日、ビクトリアランドという地名が付いている南極大陸の丘の上で、サタンがゆっくりと話しかけた。周囲にはサタンとゼノンの外、誰も居ない。
 肢体(したい)から白色の後光(ごこう)が射して柔和(にゅうわ)な趣(おもむき)のあるサタンに比べ、ゼノンは身体を黒毛で覆被(ふくひ)し、四つの顔面を持ち、面々は何れも口が裂け、頭部には二本の角が生えている。正に悪魔王に相応(ふさわ)しい、容体(ようたい)だった。
 サタンは両腕を組み、氷(ひょう)雪(せつ)上に腰掛けている。ゼノンは直立し、サタンの美顔を八つの目玉で視瞻(しせん)した。
「一月の内に、君たちを滅ぼせ、との神裁が下った」
 ゼノンは流石(さすが)に、衝撃を隠しきれぬ様だ。黙然とサタンの瞳子(どうし)に、見入っている。
「私にそれを実行するよう、下命された」
 サタンはゼノンの視線を避け、俯(うつむ)いた。ゼノンの眉が、片方のみ微動(びどう)している。
「サタン様に殺されるなら、我々も本望かもしれませぬ」
 両者間に、哀愁(あいしゅう)が漂う。
「私は今迄」
 サタンが一語一語噛締(かみし)めながら、語りだした。
「神様に逆らった事等無い。父上は常に正義だと、信じてきたからだ。併し」
「併し?」
「神様にも間違いがある、とこの度(たび)思い知らされた。君達を地上より消し去ることなんか、できない」
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