死霊むせび泣く声
 背後の排水溝の中から、血まみれの手が出てきていることなど思いもせずに。


 それに長い髪の毛が、水道管に巻き付いていることも気付きもせず。


 自分自身が怪奇現象に巻き込まれ続けていることを俺はあまり気に掛けていなかったのだ。


 取り出した水はキンキンに冷えていた。


 俺は大概、夏場に出勤するときは五百ミリリットル入りの中型のペットボトルを持っていく。


 通勤途中で喉が渇くからだ。


 俺は必要なものを全てカバンに詰め込み、手に持って、部屋を施錠した。


 歩きながら漠然(ばくぜん)と考える。


「やっぱあのマンションには何かがあるんだろうな」と。


 俺は昨日と全く同じで、上下ともスーツを着て、最寄の駅まで歩いていく。


 改札口で定期を通すと、乗り込んだ電車は込んでいた。


 俺自身、混雑している電車に揺られながら、社へと向かう。
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