死霊むせび泣く声
 俺がそう問うと、片方の霊が、


「今村武蔵介浩文にござる」


 と言った。


 追って、もう片方の霊が、


「某(それがし)、綾田伊予丞次郎でござる」


 と言い、俺の方ににじり寄ってくる。


 いつの間にか、縛られた紐は解かれていて、手には刀を持ったまま近付いてきた。


 俺が、


「や、止めろよ」


 と言うと、今村武蔵介が、


「おぬしにも地獄を味わっていただこう」


 と返し、刀を差し向けてくる。


 帰宅したばかりの俺は靴下が蒸(む)れているのを感じながらも、後ずさりした。
< 84 / 155 >

この作品をシェア

pagetop