カプリッチオ症候群

 チラッと黒板の端を見る。

 6月……1日…

 あたし達の記念日だ。
 もう3ヶ月になる。


 嶺は絶対に覚えてないよね。

 再び体勢を崩して机にだれる。


「南波ー、ちゃんときいてるのか?」


「…きーてまーすよー」


「ったく。だれるな!」


「仕方ない…」


「何がだ。ほれ、これ現代仮名遣いに直せ」


 古文の先生はこれだから嫌いだ。すぐあたしにあてやがる。

「わかりません」


 分かるわけがない。
 テストで最下位を取るか取らないか。

 まずこんな進学校に入学したのがそもそもの間違いだったのかも。


「お前なぁー…」


「仕方ないでしょ!分からないの!」


 ふん。開き直ってやる。

 すると後ろから笑い声が聞こえる。


「ゆえ…お前まぢ馬鹿」


 笑っていたのは幼なじみの剣斗

「黙れ。チビ犬」


 あたしより背は高いけど昔はチビだったからチビ。そんで、キャンキャン煩いから犬。


「チビじゃねぇーし!」


「はいはい、チビ」


「だから違うっつーの!」


 ほら。コイツと話しててもキリがない。

 つまりは面白くない。


「じゃー今日はここまで」


 先生がそう言って号令を済ますとみんな休み時間になって散る。


 特に行く宛てもないあたしは寝る準備……

 が、出来なかった。


「あー!嶺くんだー!」

「来てくれたんだ!」


 ………まじですか。

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