蒲公英
「愛海?」




名前を呼ばれ、僕は我に返った。




「どうした?ぼーっとしちゃってさ」

「…別に」

「気をつけろよ」




仕事中だった。

僕は地元の工場に勤めている。

よそ見は禁物だった。

同僚に注意されるのも無理はない。






だけど…。






仕事に手を戻しながらも、僕の心はうわの空だった。

なんの脈絡もなく聞こえた声が動揺を誘う。






過去の僕が眠りから覚めようとしている。






なんで今さら、と思う。

でもとめられなかった。






僕は自分が少しも変わってなんかいないことに気づいた。

あの頃から…、僕は彼女の前ではいつだって無力だったのだから。
< 13 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop