エングラム



「お前の名前だって綺麗だ。美しい姿よ」

シイが私の首に頭をもたげた。
少しくすぐったい。
自分の表情が僅かに弛緩した。

「変わらぬ愛」

シイが続けた、花言葉。
それは私を呼ぶ声だと気付く。

「なんですか」

「……夏休みの宿題どうだ?」

「あー触れないでください。…読書感想文をやる意義が分かりません」

「読書感想文か。あれ困るよなー…オレ読み取りは好きだが感想書くのは嫌いだ」

どちらも、うだうだした口調。
ライブコンテストに熱持ってかれたからだ。

「自分もです。読書感想文なんて80パーセントがフィクションですよね」

「残りは?」

考えていなかったので、迷ってから答える。

「20パーセントは、審査員が喜ぶ綺麗事ですかね」

果てしなくフィクションに等しい。
言った後に気付いた。
シイが笑う。
肩にある頭が少し揺れる。

「あぁ、そうだな」

ですよね、と笑い返す。


片手を、肩にあるシイの頭に伸ばした。
黒髪を撫でる。

──胸に込み上げる、これは何。



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