エングラム



高校受験を間近に控え、部屋でヘッドフォンを装備し音楽を聴いていた。

Boyz II MenのI'll Make Love To Youだ。

ラブソングなんて相手もいないのだけれど、特にやることもないので聴いていた。

ちゃんと受験生らしく、さっきまではちゃんと勉強していた。今は休憩中。

委員長がうるさく、音楽に現を抜かすな自覚が足りない、などと言ってきたことがあったが。

私をやる気にさせてくれたのは、音楽だ。

オウ兄がくれたDESPERADO。
きっとまだ間に合うと、一人の男を唄う歌。

それとピアノ。あとベース。
やっぱり勉強が辛くなると、音に励まされた。

甘い声に身を沈めた時、自室にノックの音が飛び込んだ。

「はーい」

返事をすると、開けるよ、と母親が入ってきた。

「オウガくんのお墓参りに行こうと思うんだけど、行く?」

母親はドアノブに手をかけたまま、私に尋ねる。

「行く行く!──今から?」

テンポよく返事をしてから尋ねた。



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