兎心の宝箱2【短編集】
 月曜日、朝から待っているけどもあの人は来ない。通り過ぎる人の群れは誰も興味が無いのか私の方を振り向きもしない。今日は雨だ。
 火曜日、今日も朝から雨だった。今日もあの人は来ない。約束したのは昨日なのだからこない時点で結果は分かっている。それでも私は未練たらしくこの喫茶店の前で佇んでいる。
 水曜日、今日も雨だ。背中を預ける喫茶店は今日も閉まっている。月曜日も火曜日も閉まっていたけれどいつ開いているのだろうか? 今日もあの人は来ない。
 木曜日、今日も雨だ。この空と同じ様に私の心は晴れそうにない。喫茶店の入り口には定休日の立て札。よくこれで商売が成り立つものだ。今日もあの人は来ない。
 金曜日、もういい加減諦めよう。あの人が私の知らない誰かと、キャンパスで話をしているのを見かけた。今日も雨が降っている。通りを歩く人の色が次第に無くなっていく、私の心が冷えていくのに呼応して。今日もあの人は来ない。
 土曜日、今日も雨だ。色をなくした人々がさす傘は、市松模様の様に黒と白のコントラストを見せてくれる。明日で最後にしよう、それで私の恋は終わる。今日もあの人は来なかった。

 日曜日、久しぶりの晴れだ。営業中の立て札が、風に煽られて入り口で揺れている。私は少しだけ迷った後にその扉を開いた。
静かな店内に溢れるジャズの音色。その音に導かれる様に私はカウンターに座った。
 何も言っていないのに出されるホットコーヒー。
 何処までも白い陶器の色と何処までも黒い珈琲の色。それは、昨日みた傘の様に無機質な色ではなく、鮮明に私の心を溶かしていく。
「今日は晴れました。明日からもきっと晴れですよ」
 赤く染めた髪が特徴的なマスターが口を開く。

 明日は違う誰かが来るだろうか?
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