依存~愛しいキミの手~
私は知美の部屋を出て、マンション前でタクシーを拾った。


「新ば…」


タクシーに乗り込んで行き先を告げようとしたが、一瞬さっきの知美の言葉を思い出した。


「渋谷まで」


新橋まで行き帰宅する予定だったが、渋谷に行くことにした。


圭介に会いに行くわけではないけど、圭介に出会った場所に別れてから初めて行ってみようと思えた。


すごくドキドキした。


ゆっくり緊張を隠すようにタバコを吸い窓の外を眺める。


南青山…。


もうすぐで着くと思うとさらに緊張する。



タクシーが止まり、私はゆっくりパンプスのヒールを地面につけた。


背中でドアが閉まる音が聞こえる。


昔と特に変わっていないような、…でも違うような…。


肩にかけた鞄の皮紐を両手でぎゅっと握り、歩き出した。


ハチ公前のベンチに腰かけ目をつむる。


耳に届く街中のざわめきは昔と変わらなかった…。
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