ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



コン…。


俺は…シャワー室のタイルに額につけ、暫(しばら)く…冷水シャワーに体を打たれた。


冷め切れぬ熱を…ひかせる為に。




十分すぎる程判っている――。


行動で示せばいいことは。


はっきりとした言葉で。

揺るぎない態度で。


"気高き獅子"の時のように。



例え拒絶されても――


必死に訴えればいい。

懇願すればいい。


それこそ、"幼馴染み"を利用してでも。


その絆が強いというのなら、

その名で縛ればいい。


拒めば一切の絆は無くなると、

脅して、俺の中に閉じ込めればいい。


形(なり)振り構わず、奪えばいい。


芹霞の全てを。



判っている ――。


待つだけではいけないことは。



だけど――

出来ないんだ。



――はい。約束します、父上。



俺は吐き出せない理由がある。

したいのに出来ない理由がある。

待ち続けないといけない理由がある。




「俺は……」



判っていながら――


――あたしだって相手選ぶわよ。


あの時。



暴走していいと思った。


もう少しだけ、進んでもいいと思った。



――芹霞ちゃああん!!



いつも堰き止められる苦しい想いを、

ほんの少しだけでも判らせてもいいと思った。


すごく――

報われぬ自分が、哀れに思ったんだ。


情けなくなる程。
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