ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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何かの視線を感じたんだと思う。


「………ん…?」


うっすらと目をあけた時、


「うわあッ!?」


驚いた声を出したのは

鮮やかな橙色だった。


「何で起きるんだよ!?」


あたしは眠い目を擦りながら、暗い部屋でただぼんやりと…慌てた声を上げる煌を見つめた。


鼻を刺激する…匂い。


「――…香水?」


すると煌は一瞬黙り込み



「今、風呂で消す処だから」



そう…自嘲気味に笑った。



昔、よくこんな夜があった。


移り香、なんだろう。

あたしでも意味は判る。



きつい――

女物の香水の匂い。


煌の"雄"の匂いに溶け合うような、"雌"の…本能の匂いの気がして。



この匂い…あたし嫌いだ。


落ち着いたと思っていたのに…

また…始まったの?


始まりは中学時代。


夜、如何わしいネオン街に消えるようになった煌は、こうした匂いをつけて明け方に帰るようになった。


その匂いがたまらなく嫌で、こっそり櫂や玲くんに相談したこともあったけど…彼らは苦笑するばかり。


――煌も、"男"だからね。しかも…理性派じゃないし。


"男"だったら何?

そんなの…あたしは知らない。

あたしは女だもの。


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