ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「何だ、神崎」



判っているのだろう。

判っているから、笑っていたのだろう。


恐らく、この状況は…"必然的"なもの。


だけど自惚れるな。

陥落したわけではない。


あたしは…深呼吸をして言った。


「先輩について行くわ。だけど、煌と陽斗と共にね。だから…これ以上、彼らを傷つけるのは許さない」


あたしは、あんたに利用される気はない。


利用するのはあたしの方。





――ねえ、櫂。



「彼らを助けて下さい」



また櫂に会えなくなっちゃったね。



あたしは――

先輩に深々と頭を下げた。



それくらい、あたしだって出来る。

大切な者達を守る為ならば。



あたしは、こんなことくらい平気だ。



先輩の高笑いが聞こえる。

蒼生が動いた音が聞こえる。


非難するような煌の声。

舌打ちする陽斗の音。


入り混ざって、ただ雑然としているけれど。



逃げてやる。

3人で逃げ切ってみせる。



例え今、どんなに羞恥に充ち満ちた心情を抱えようと。

これからどんなことが起きようと。



見てろ。


最後に笑うのはあたし達だ。



必ず突破口は開いてやる。

逃げ切ってやる。



あたしは――

ぎりりと歯軋りして、



「お願いします」



更に頭を深く垂れた。



< 338 / 974 >

この作品をシェア

pagetop