ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


一方芹霞は――。


「煌とあたしのぎゅうにケチつけないでよ。あたし達はね、親愛のぎゅうをしているの。いい!!? あたし達のぎゅうはね、~~ッッ!!! ~~~ッッッ!!!」


俺は溜息をつきながら、片手で芹霞の口を押さえた。


牛じゃねえんだ、ぎゅうぎゅう連呼するな。

俺もへこむし、あの会長も激高しているから。



「……ちッ」


御階堂の舌打ちが響く。


そしてつかつかとこちらに歩み寄って身を屈めると、座り込んでいる芹霞の腕を掴んで、自分の下に引き寄せようとする。


俺が居るのに。


「触れさせねえ」


俺は片手で芹霞を抱き直し、片手でパシンと御階堂の手を弾いて、下方から睨み付けてやった。



「俺を見くびるな。

お前なんかに渡さねえ」



すると御階堂は冷たく言った。


「それは僕の台詞だ。

今の僕は桐夏の僕とは違う。

紫堂の犬など、完全僕の手の内だ」


暗に氷皇の存在をちらつかせた。


「自分が出来ねえからと、他人に頼るか。

お前…男の矜持はどうした?」


嘲るように俺は言った。


「そんなもの――

とっくに捨てている」



相変わらず高飛車野郎。


それでも僅かに何かが崩れている。


そんな気がしたんだ。

< 367 / 974 >

この作品をシェア

pagetop