ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


あたしは笑いを作ったままで、櫂に聞いた。

 
「ねえ、櫂。あの"道化師"って金髪男、何者? 紫堂の仕事にとやかく言いたくはないけれど、あんなのが近付いてくるなんて、ヤバ過ぎの仕事しているの?」


アバラを外す相手が、友人だとは考えられない。

煌の身体能力をも翻弄する、正体不明の胡乱な相手に、大事な櫂を近づけさせたくない。


いくら櫂が豪胆で無敵であっても、人間でありさえすれば必ずどこかで歪(ひず)みが出てくる。


しかも憂慮すべき相手は、人間だけではない。


不本意ながらも、よく判らない…ゾンビみたいな怪物まで出現してきた。


「ねえ、危ないことに手を出さないでよ」


――ぎゃははははは。


今更ながら、ぞくりとする。


櫂があの金髪男と面識があるのなら。


何より煌が動じていなかったのだから、

多分櫂もあの怪物を知っているだろう。


一体、アレは何!?



「……善処する」



櫂は一言で、あたしの心配を却下した。


二の句を続けさせない凛然たる威圧感。


だからこれ以上、あたしは踏み込めない。


弾かれれば踏み込んではいけない、

それが幼馴染みとしての境界線(ボーダーライン)。
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