ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├警護団長の傍観

 桜Site
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紫堂本家から祭場へ車で向かう途中――。


櫂様は、組んだ長い足を小刻みに震わせ、手にした携帯を開けたり閉じたりを繰り返し、酷く苛々していた。


端正の顔には深い翳り。

眉間にはくっきりと深い縦皺。


相手が強大であればある程、不敵に構える櫂様が、こんな態度を露わにするのは――


間違いなく、芹霞さん絡みだ。


理由は、切ったばかりの電話だろう。



――芹霞に手を出したら承知しないぞ!!



その言葉をピークにして、

櫂様も…車内も凍り付いた。



そして更に――



――芹霞の首の絆創膏剥の下。判るだろう、誰の痕なのか。



私の隣で運転している玲様の端麗な顔が、深い翳りに覆われて曇って行き、


――マーキングは無効だ。芹霞は渡さない。



後部座席、櫂様の隣にいる橙色も不機嫌そうに窓の外を睨み付けていて。



恐らくは――


陽斗という名の道化師に挑発でもされたんだろうが、やはり櫂様にとっては陽斗の身体がどうであれ、芹霞さんに名を呼ばせた時点で、心穏やかではなかったらしい。


それを抑えて手を組めど、安心の証拠が欲しくてかけた電話の先は、予想外に反抗的で櫂様を掻き乱す結果となったらしい。



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