ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



そして8年前。


――桜。この方がお前が守護する、次期当主の櫂様だ。



当時警護団長であった父からそう紹介された時、私の運命を委ねる相手が、何故櫂様なのかと純粋に疑問に思った。


正直、馬鹿にされたのだと思った。


次期当主は、玲様だと思っていたから。


私と対戦した時は、玲様はその名に一番近い筈だった。


玲様は、頭脳も容貌もそして力も、他の紫堂の者とは比べられない程、突出しすぎていたから。



だが、私に充てられたのは、櫂様だ。



――お前が「漆黒の鬼雷」、葉山桜か。



ゆっくりとした漆黒の瞳が私に絡んだ時。

形いいその唇が、言葉を紡いだ時。


私は――

生まれて初めて、「畏怖」を経験した。



何だ、この威圧感。



年上言えど10歳にも満たない少年が、修羅場慣れしているこの私を、ただの一瞬で射竦めた。


私は、肉食獣を目の前にした小動物のようだった。


紫堂の血筋は、完全実力主義だ。

弱肉強食の世界。


「次期」の座であっても、その名を受け継ぎ当主になるためには、その力を周囲に示さないといけない。 


私は人づてで、櫂様は既に玲様を打ち負かしていたのだと知った。

そして玲様は櫂様に完敗し、自ら願い出て、その配下に下ったのだと聞いた。



 誰も、櫂様に抗えない。

 同じ土俵すら立てない。



その時から、私にとって櫂様は――

崇めるべき"紫堂の象徴"となった。
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