ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

 
ただ触れるというだけなのに。

あらゆる種類の触れ方をされて。


じれったい様な心地に、呼吸が乱れる。

それを煌に悟られないように、必死に唇をかみ締める。


ただ触れられているだけなのに。

あたしは疲れているんだろうか。


気分を変えようと話しかけて見るけれど、会話はなんとなく空回り。

返事は聞こえるけれど、心がない。


煌からは、何も話そうとしない。

目を合わせようともしない。


折角仲直りしたはずなのに、

煌の顔は悲痛さに曇っていて。


あたし、そんなたいした怪我でもないのに。


拒否しているような面差しなのに、足に触れる手の動きは正反対で。


必要以上に触れている気がして。

それ以上を求められている気がして。


煌が求めているのは何だろう。


こんな顔をして、一体何を考えているのだろう。


いつも怒鳴りあって笑いあって。

心のままに接してきたこの相手に。


あたしが判りえぬ部分を"成長"だというのなら、成長しきれていないのはあたしなのかもしれない。


それとも煌は――

昔から変わっていないのか。


あたしがそれに今まで気づかなかっただけなのか。



あたしは今更ながら、"如月煌"という存在を感じる。


あたしとは違う異質な存在。


だからなのか。


ドキドキした心臓を感じるのは。


だから――


「うん、ありがとう、煌」


そう言って、煌を遠ざけるしかあたしには出来なくて。


大事な幼馴染を穢したくなくて。


ごめんね。


あたしは煌に心で謝る。


煌はただあたしの手当てをしてくれただけなのに。


変に思ってしまって、本当にごめんなさい。



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