ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 
地下から地上に出るにあたり、芹霞さんはゴミ箱からあさった新聞紙と、赤いマジックにて、陽斗への書き置きを残した。


"リダイヤルにて櫂か玲くんに電話すべし"


そして芹霞さんは自分の携帯を椅子に置いた。


見附駅の構内から悲鳴が上がる。


まだ生存者は居るようだ。


もし血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)が五芒星の形に流れ歩んでいくのなら、集結たる赤坂はまだ完全に陥落はしていないようだ。


私達は全能じゃない。

正義のヒーローでもない。


助けを求める全てを、救うことは出来ない。


それでも、出来る限りの血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)を消し去り階段を上ると、地上に出た。


灼熱の太陽が照りつけ、あまりの湿気に目眩がする。


饐えた匂い。

真紅に散る残虐な痕。


火を吹いて重なり合う自動車。

砕け散る建物。


祭の名残を残しながら、

無残な骸と成りはてた街。



生気ないその中を跋扈するのは――

血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)。


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