ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
だけど今ここで、僕も煌と共にわめいても仕方がないから。
煌と共に芹霞を奪い合っても仕方がないから。
僕は全神経を集中させて、心を静めている。
どんな外因があろうとも、
煌が動いたのは――
根本にあいつの願いがあるからだ。
あいつの欲求だ。
僕は嫌な予感を感じている。
僕の中で囁く声。
ずっと――、
――GAME START
明治神宮で藤姫の声が聞こえた時から、僕を煽りたてるように心が鬩ぐんだ。
自制できない。
何でもないことが変に苛立って、もどかしくて。
芹霞を護るべきは、僕だけなのだと。
僕が芹霞の横に立ちたいと。
心より、身体が先に動いてしまう。
櫂の前だというのに、押えが利かない。
心に聞こえるのは、
亜利栖の姿をした藤姫の声。
ああ、僕も。
彼女の術中に居るのか。
冷静な自分と荒れ狂う"自分"に挟まれて、
僕は狂い出しそうだ。
僕の中の気狂いの血が、沸騰している。
煌に感染された僕もまた、
この先…櫂を敵視して、
憎悪を向けてしまうのなら。
――櫂、行こう。
櫂と煌を離さないといけない。
同時に――
僕と芹霞を離さないといけない。
頽廃したビルに足を進めたのは、緊急避難だった。