ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~




だから、煌を信用できる。

だから、同時に煌を恐れもする。


いつか――

俺と同じ想いを抱えるのではと。



いや、既に抱いているかも知れない。


芹霞のことを…幼なじみではなく、

1人の…女として。



「……櫂?」



不安げに揺れる褐色の瞳。


――揺れているのは俺か。



「傷、痛むのか?」


一昨日の傷など何ともない。


「お前が桐夏に行くって言い張るから、夜通し玲が"頑張って"たぞ?」


玲のおかげというのも癪だが、確かに痛みはなくなった。


「すまねえ。俺が…不甲斐ねえばっかりに」


少し癖があるオレンジ色の髪が、項垂れたのと同時に前に流れる。


「お前が、そんな気に病むことないさ。攻撃を受けた俺が悪い。もうあんな失態は見せない」


ふっと笑って見ると、オレンジ色の大男は、今にも泣き出しそうにうるうるとした褐色の目を見せてきた。


「櫂……俺もっと強くなるから。

もっともっと強くなって、

あの男ぶちのめしてやる。

櫂ありがとな、俺…櫂が大好きだッッ!!!」


今にも両手で抱きついてきそうな男をかわして、少々乾いた笑いをしてしまった。


この男に全身全霊で抱きつかれたら、俺のアバラが砕ける気がする。

そうなったら玲に何を言われることやら。
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