青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)
 たっぷり時間をかけてコッペパン、ひとつを完食した少女がゆっくりと立ち上がり、

「ありがとうございました」

 と頭を深々と下げて、丁寧なお辞儀を見せた。
逆に恐縮して狼狽するクヲンだが、頭を下げている少女がそれに気づくはずもない。

「まぁ、なんで行き倒れてかは訊く気はないけど、次からは気をつけろよ」

「はい。あ、私、マリィっていいます」

「いや、名前、訊いてないし……」

 マリィと名乗ったこの少女にクヲンはペースを崩されながらも、これきりの出会いだと思い、足早にその場を立ち去ろうと歩を進める。

「じゃあな」

 背を向けて若干の早歩き。
 しかし、妙に感じる背中に突き刺さる視線を感じた。確認するまでもない。

 出会ったばかりの少女のものだ。

「って、おい!」

 マリィの所まで逆走したクヲンの第一声に、彼女は何のことかわからないといった風に小首を傾げた。

 その仕草が余計にクヲンの神経を逆撫でた。

「なにその「はい?」って態度は? いつまでも見送ってないでお前も早く帰れよ!」

「何処に帰ればいいのでしょう?」

「あるだろ?お前の家が!?」

「えっと・・・・・・何処に?」

「知らねぇよ!」

 ついに怒鳴りだしたクヲンだが、少女は相変わらずハテナマークを頭上に浮かべたままのような顔でクヲンを見つめている。

(アホらし……)

 こういうのを「のれんに腕押し」というのだろうか。
とにかく、ひとり息を切らし始めたクヲンは、だんだんと自分の中で沸騰した熱が冷めていくのがわかった。

(こいつ、家出か何かか?)

 それにしては荷物らしい荷物はない。完全に身一つだ。

(こういう場合、普通警察に届けるべきなんだけど、ちょっとここからじゃ距離あるよなぁ)

 携帯電話の普及により電話ボックスは近場にはなく、今のクヲンにはその携帯電話すらない。
 散々迷った挙げ句にクヲンが出した答えはやむを得ないものだった。

「俺んち来るか?」

 心の中で断ってくれと祈りつつ口に出したその言葉は、彼女の笑顔と共に打ち砕かれた。

「はい」

「マジで?」

 間髪入れずに出てしまったクヲンの率直な声だ。
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