青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)
§


 とても寂しそうな男の目。空兎は、先ほど訊きそびれた質問の代わりに空兎はこんなことを、湖を見つめながら訊いてみた。

「ねぇ、知ってる? この世にはさ、たった一度だけ“奇跡”を起こせる宝があるんだ」

「………」

「もし、おじさんの手元にその宝があったら……おじさんはどんな“奇跡”を起こす?」

「“奇跡”か………」

 男も湖を見つめた。水面が夕日に照らされてキラキラと光っている。神秘的であり、幻想的であり、どこか哀愁が漂っていた。

「私は、娘を目覚めさせるな……」

「娘さん?」

「あぁ、生まれてから、まだ一度も目覚めていない娘だ。もう十四年になる」

「まるで眠り姫だね」

「だが、王子の口付けで目覚めることはない。深い眠りだ。………こんな素晴らしい景色すらも見れないまま今も眠り続けていき、確実に年を重ねていく」

「楽しいことも知らないままか………なんかそれって怖いな」

 自分がもしそうだったらと思うと、空兎は素直にそう感じた。

「どうだろうな……娘はまだ楽しいことを知らない。怖い、というのは少し違うかもしれない」

「……そうだね。うん、もったいない、かな」

「だから、もし“奇跡”を起こせる宝が私の手元にあるとすれば、迷わず娘のために使う」

「……そっか」

 空兎は、小さく呟いた。それから地面に膝を抱えて座り込んだ。

湖の水面をただひたすら見つめながら密かに考え込む。

(やっぱり、みんな、それぞれに譲れないものというものはあるんだよね……人のためだったり、自分のためだったり……私にだってそういうの、あるけどさ……)

 心の中で急激に感情が昂る。やりきれなくなる。不安になる。

(でももし、今、アタシの手元に“神杯”があったら―――――)

 それでも空兎は、決意を変えなかった。


 ある一つの“奇跡”を……。


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