くるきら万華鏡
「忘れた。」


 そう答え、眠りに入るのを邪魔され、不機嫌な有坂くんが、枕にしていた腕はそのままに、おもむろに歪めた顔を重そうに持ち上げ彼女を見上げた。


 私ではなく、まず有坂くんに矛先を向けるところが、なんとも卑劣。


「すみません、私が借りてました。返します。」


 慌てて私、有坂くんの教科書を手に取り、それで隣の机の上の有坂くんの腕をツンツン押した。


 しぶしぶ身を起こして腕を除けると、有坂くんは教科書を受け取った。


 そして、恨めしそうに目を細め、『余計なことを』とでも言いたげな目線を私に寄越す。


 だってしょうがないじゃない、私のせいで有坂くんが怒られるとか、耐えられないし。


 それに、彼女は全てをお見通しで、あえての『有坂くん攻撃:』を仕掛けているのだから、下手にごまかせば、尚更面倒な事態に陥るのは簡単に予測できる。


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