恋を、拳と共に

私も秦野くんを真似て、しゃがみこむ。

「さっきは、ほんとにごめんなさい」

「うん、あれは俺が悪かったから。だから、和解の握手」
「……あと、これからもよろしく、っていう握手な」

全力で競い合った後だからか、素直な気持ちになっている。
いつもだったら「でもやっぱりごめんなさい」って言ってしまいそうになる場面だ。


差し出された秦野くんの右手に、自分の右手を重ねる。
秦野くんの、大きな手のひら。長い指。
力強く握られる、私の手。

秦野くんは更に左手も重ねてきて、私の手はすっぽりと包まれてしまう。

「これからも、よろしくな」
秦野くんがさっきと同じ言葉を、穏やかに言う。

「うんっ、こちらこそ、よろしくね」
立ち上がりつつ秦野くんの手を握り返し、私も答える。

退場の笛が鳴ったので、私たちは慌てて握った手を離し、トラックから走り出た。

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