ノイズ
「……可奈」


​隣を歩く文也が、押し殺したような声で名前を呼んだ。
警察の現場検証と可奈の証言により、沙織の死因は自殺と断定された。






沙織の死はあっという間に学校全体に知れ渡り、緊急に開かれた職員会議によって、全校生徒は速やかに全員下校ということになった。






ぞろぞろと一斉に下校を始めた生徒たちと混ざりながら、可奈と文也は駐輪場まで歩いていった。






二人とも自転車には乗らず、無言で自転車を押して歩く。






可奈の目は泣き続けたせいで、兎の目のように真っ赤に充血していた。







沙織が自分を守るためとはいえ、屋上から飛び降り自殺を図ったことはショッキングであり、とても悲しかった。






あれほど沙織を死なせない、絶対沙織を助けると文也と一緒に誓ったはずなのに、結局は助けることはおろか何一つ出来なかったのだ。






立花の言う通り、あまりにも自分たちは無力であり、無知で馬鹿な子供に過ぎないのだということを嫌という程思い知らされる結果となった。





(もう何もかもどうでもいい……)





ふいに、可奈の心にぽっかりと暗い穴が開いた。





その穴から真っ黒い物が溢れ出て、じわじわと全身に広がっていくような錯覚を覚える。


可奈は返事をしなかった。


答える気力すら、その暗い穴に吸い取られていくようだった。


​沙織の温もりが、まだ自分の手の平に残っているような気がする。


少女の霊に操られまいと、あんなにも必死に抵抗した沙織。


自分を守るために、冷たいアスファルトへと落ちていった親友。


(助けるって言ったのに……私、守るって言ったのに……)


​喉の奥がヒリヒリと痛み、息をするのも苦しい。


自転車のハンドルを握る手が、知らぬ間にガタガタと震えていた。


​「可奈、頼むから……そんな顔すんなよ」


​文也が自転車を投げ出し、可奈の前に立ちふさがった。


可奈の視線は、ただアスファルトの上の小さなシミに注がれたままだ。


​「俺だって悔しいさ! 沙織を救えなかったことも、立花さんの言う通り俺たちが何もできなかったことも……全部、全部悔しくてたまらない!」


​文也の絞り出すような声が、夕暮れの校門前に寂しく響く。


彼は可奈の両肩を、揺さぶるように強く掴んだ。



​「でもさ……可奈までそんなところに行ったら俺……俺はどうすればいいんだよ」


​文也の指先から伝わってくるのは、激しい震えと、必死の温もりだった。


可奈はゆっくりと顔を上げた。


涙で滲む視界の中で、文也の瞳もまた、赤く濡れているのが見えた。


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