遙か彼方



「だめかな?」

「……だめじゃないけど」


私的にはだめなんだけど、一応ここは“図書館”という誰が利用してもいい所だし。

はっきりだめなんて私の口からは言えない。



「良かった。じゃあまた明日ね」


そこでやっと彼は本から手を離して、私の横を通り過ぎる。



振り返ると背中を向けた彼はフードを深く被り直して、歩いて行った。




────嵐が過ぎ去った後のよう。


私は今まで彼が座っていた小窓の前にペタンと座った。


「はぁ……」

ずいぶん人との交流を避けてきたせいか、あれだけの会話で凄く喉を使った感覚に陥った。


どれくらいぶりだろう。

あんなに喋ったのは。






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