夕暮れ色の君


『走っても走っても、闇の中から解放されない。

僕には光を見ることができる権利がないんだ』



蒼さんから淡々と話されるように聞こえる言葉。



…だけど、その、一瞬。


笑顔だった表情が、ひどく寂しそうに見えた瞬間、

心臓を掴まれたような、苦しい気持ちが身体中を駆け巡る。



だけど、今まで人と関わらず過ごしてきたあたしは、

何か声をかけてあげたいと思っても、言葉が出てこない。



あたしが何もできずに、ただ立ちすくんでいると、



『なーんてね』



急に明るい声が、聞こえた。



あたしがもう一度顔をあげると、蒼さんはいつも通りの柔らかい笑顔。



さっき目にした表情が、嘘のようだった。



< 45 / 85 >

この作品をシェア

pagetop