記憶 ―惑星の黙示録―
ビクッとその音の方を見ると、付近のテーブルに居た子供の持っていた風船が割れていた。
赤い風船の残骸。
わぁわぁと泣きわめく子供。
あぁあ…
その光景を見て、うるさいわね、としか感じていなかったんだと思う。
ちりんっ…
ねぇ、
この鈴の音は…?
「――タビッ!!」
愛里が慌てた声で猫の名を呼んでいた。
猫はもう愛里の手元を離れ、
身を乗り出す愛里の視線を追うと…
猫は、
車道へと差し掛かっていた。
あの音に驚いて逃げ出してしまったんだ。
――パッパッー!!
自動車のクラクションが、耳に鳴り響いて。
「…タビッ!!嫌っ!」
愛里の叫び声。
それで勝手に体が動いたんだと思う。
「私」が、
車道へと駆け出していた。
動物は嫌い。
でも、愛里の大切な猫だから。
これから結婚するのに。
幸せな時間、
幸せな思い出の前に、
愛するペットの死なんて…
悲しい想いは、要らない。
だから…
――…キキィィッーー!!
クラクションの大きな音。
耳が張り裂けんばかりのブレーキ音…。
私の屈んだ体が、手が…
猫の元へと、
届いた…。
届いた…のに…
ちり…ちりんっ…