ホタル
第四章【罪罰】





……………

「朱音、ドライヤーある?」

最近裕太はノックをしなくなった。突然ドアを開けるから、あたしの心臓は毎回驚く。今日も相変わらず突然開ける裕太に、例外なくあたしの心臓は跳び跳ねた。

「裕太…。ノックしてって…」
「あ、これこれ」
「もぉ、聞いてる?」

我が物顔で入ってきて、ベッドの上に放置していたドライヤーを手にとった。そのままコンセントに挿す。

「見られちゃマズイことでもあるの?」
「そうやってすぐ…っていうか、ここで乾かすの!?」
「いいじゃん。少しでも一緒にいたいだけ」

カチッという音と共に、部屋はすぐさまドライヤーの音に包まれる。その中であたしは、目を見開いたままただ顔を赤くするしかなかった。
そんなあたしをチラッと見て、乾かしながら小さく笑う。


…最近裕太はずるい。

あたしは前以上、裕太に振り回されてる気がしてしょうがない。
少し強がって「あっそっ」と背中を見せる。赤い顔を少しでも冷ます様に、カーテンを開けて外を見た。

向かいの邸宅に、電気は付いていない。暗闇の中にあの日の記憶がうっすらと浮かんだ。

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