ホタル
第三章【禁忌】




……………

窓際の席からグラウンドを見下ろすと、既に日に焼けた野球部員が声を揃えて走っていた。合間に響くピストルの音は、多分陸上部だろう。あの音を聞くと火薬の匂いがふいに香った錯覚に囚われる。
あたしは机の上のプリントを捲ったり閉じたりしながら夕日の射し込む教室に一人座っていた。興味もないグラウンドの部活風景を観察するほど、はっきり言って暇だ。

「......遅いし」

携帯を開けると17時30分のデジタル文字。集合時間30分"後"だ。

大体何であたしがこんなことやらなくちゃいけないんだろう。
6月にあるクラスマッチ。普段そんなに運がいいわけじゃないあたしは、まさか自分がくじで当たりを引いてしまうなんて思いもしなかった。当たり、つまり実行委員。余計な所でくじ運を使ってしまった。そして今日はその雑用。

ため息をひとつつき、再びグラウンドに目を戻した。今度は野球部じゃなくサッカー部に目をやる。
ビビッドカラーのゼッケンを着けた部員達は、1つのボールを必死に追いかけていた。砂ぼこりがここからでも見える。白熱した練習試合にこっちまで暑くなりそうで、あたしは視線を教室に戻した。

時計を見る。さっきより5分たった。


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