白樹
少年の過去



小さい頃のたった一日のあの日の記憶が少年の中で夢として、何度も、何度も、毎晩のように出て来る。

そのたった一日の出来事というのは、現在高校生の少年、春樹 がまだ、小学校の頃の話しだった。






父親の転勤が決まり、都会から急に田舎へと引越して来る事になった春樹は、仲良しだった友達と別れて新たに転校する小学校に少し不満げだった。

それも、そのはず。春樹は、幼稚園からずっと一緒のクラスの仲の良い、しょうくんという男の子がいて、しょうくんとはずっと一緒にいると約束したばかりだったのだ。

そのため、春樹は一人でも家に残るとその場から離れなかった。

だが、小学生一人を置いて行ける筈もなく、結果的には春樹の父親の秋が、離れまいと机にしがみついている春樹を抱き抱えて、多少無理にでも連れていく事となった。

無理矢理、車の中に押し込まれた春樹は不機嫌なまま、窓の外を睨み付けていた。そんな様子をバックミラーごしに見ていた秋が春樹に言葉をかけた。

「いつまで拗ねてんだ?」

「別に拗ねてないっ!」

「拗ねてんじゃねぇか」

「拗ねてないって!!」

春樹が、ムキになって急に大声で叫んだので、秋は少し驚いた。一度は逸らした目線を再びバックミラーに写る春樹に向けた。

すると、春樹もミラー越しに秋を睨んでいた。

目が合うと、すぐに素っ気なく逸らされた。

「……」

「………新しい学校は、明日から通う事になってるから新しい家に着いたら準備しとけ」

秋は、そう告げて運転に集中することにした。

春樹は黙り込み、いつの間にか手に握っていた押し花を見つめていた。

押し花は、クラスメイトが作ってくれたものだった。そして、大事にポケットへとしまい込み春樹は、再び窓の外を見つめた。





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