君は変人
たまたま今回の理科の小テストの日は、新米教師は休みだったのだ。

これが理科以外なら、何もなく済んだだろう。

しかし、理科教師は桜にたくさんの貸しがあるのだ。

意外と責任感の強い桜にとって俺たちも一緒に怒られることは、かなりの屈辱だろう。


「個人的なことなら、先にこの三人を帰してくれないか」

足を小さく小刻みに上下に動かしながら、桜は言った。


「お前は一人で怒られるより、何人かで怒られる方が反省するかと思ってな」と、四十代後半の広い額が目立つ、お世辞でも美しいと言えない顔が不気味に笑った。


「残念ながら、俺は人生で一度も反省したことはない」

桜は変なところで胸を張る。


「お前のような人間がいるから、この世界は腐っていくんだよ」

少し呼吸を置いて、教師は言った。

一瞬、俺たちの空気が変わる。


「俺がいつこの世界を腐らした?俺が生まれた時には、全てのことは腐ってた」


桜は珍しく遠い目をしていた。

そう言えば、俺は桜の言葉や行動は知っているけど、過去やもっと簡単に言うと家や電話番号、誕生日も知らない。


「俺は、お前たちが大人になった時の世界が怖くて怖くてしょうがないよ」

わざとらしい溜息が聞こえ、気付けば俺もその教師を睨みつけていた。


「残念ながら、俺達が大人になった時の世界を動かしていたのは、お前ら大人だ」

お前に何が分かる、とその教師は独り言のように呟いたが、桜の強い声に圧倒されているのが分かる。


「さあ、帰ろうか。百合、頼朝、スー」


チャイムが鳴ってから、もう時計は十分経過していた。

今日は六限がないからいいけれど、それでも終礼には遅れることになる。

それに、加齢臭を隠そうとしているのか、きつい香水が鼻をさす。

そして、この光った広い額。

感覚神経全てから、拒否反応が起こる。


「おい、まだ話は終わってないぞ」


「うるせえよ。はーげ」

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