いつもと違う日
化物
ふと今来た道を
振り返ったとき、
私の意識は
熱や光や
セミの鳴き声といった
煩わしいものたちから
一気に離れて、
とてつもない恐怖と混乱に
支配されてしまいました。

後ろ向きに立っていた
女の子の姿は消えて、
寝そべっていた男の子が
こちらを向いて
立ち上がろうとしています。

もう随分と
子供たちから離れたところまで
歩いてきていたのですが、
遠目で小さく見える
男の子の上半身には
明らかに首がありません。

首が無い状態で
フラフラとこちらに向かって
歩いてくるのです。

私は思わず
逃げ出そうとしたのですが、
凍り付いた背筋に
声を出すこともできず、
まるで
自分の身体ではないような
酷い金縛りに
陥ってしまいました。

男の子は
少しずつ近づいてきます。

動かない身体に
懇願する思いで
自分の足元に目を移したとき、
まず視界に飛び込んできたのは
脚ではなく、
あまりに悲惨な姿をした
男の子の生首でした。

無表情の首が、
私を追いかけてきたかのように
こちらを向いて落ちています。

その目つきは異様に
ハッキリとしていて、
私のことを
睨みつけているようでした。

その衝撃的な光景に
恐怖心が混乱を越えて、
気づいたときには
大きな叫び声を発すると同時に、
後方へと
大きく飛び退いていました。

ようやく
自分の意思と
繋がってくれた脚を
全力で自宅の玄関まで走らせて、
慎重に
ポケットから取り出した鍵を
流れるように
鍵穴へと滑り込ませます。

僅かに開けた扉の隙間から
素早く家の中へと逃げ込み、
速やかに内側から鍵をかけて、
息を殺したまま、
そっと扉からの距離をとりました。

鍵はかけましたが、
扉から目を離すことも出来ず、
私は何も身動きが取れないまま、
家族の帰りを待つだけの状況に
追い込まれました。
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