制服の中
教室に入ると人数はまばら。みんな山手線の遅延に巻き込まれたようだった。
このままだと1限目は自習になるだろう。生徒がここまでいないとなると、授業も進められない。
その1限目は、英語演習だった。

担当の池上先生が教室に入るなり「ダメだな今日は」と苦笑した。
その苦笑が「自習」の合図のようで、思ったより早く席についてしまった私たちは歓声を上げた。
「私たち」とは言ったものの、私は大して嬉しくもない。
たかが1時間だけが自習になったところで、何がそんなに嬉しいのか理解できない。
丸々1日休みになれば話は別だけど、学校までもう既に来てしまったからには、授業を行ってもらいたい。

池上先生は、「先生」「教師」という枠に入らないような、教師らしくない教師だった。

まだ若かったのもあり、女子高での若い男の先生なんて、絶対どんな不細工でもモテて、
多少年がいっていても、「男」という生き物が貴重な女子高だったら、余程の事がない限り嫌われはしない

これが、私のこれまでの「男性教師」に対する見解。
だから、いくら「教師らしくない」とはいえ「教師」であり、私たちに見せる笑顔の裏には内申点をどう点けるか睨んでいるに違いない。
雑談から生徒の素行を見抜いて、点を下げようとしている生き物に変わりない。

池上先生と談笑している友人らを見て、「あんまそうやって素性出さないほうがいいよ」と、警告したくなった。

ウォークマンを制服の中から通して、袖からイヤホンを出し、頬杖をつくようにして音楽鑑賞。
これが、私の授業スタイル。
好きな曲を延々聴いて1日を終えてしまう日もあったくらいに、私は毎時間頬杖をついていた。

何の確証もない噂によると、高2のクラス編成は、成績順だったとか。

私はA組だった。
まさか「バカな順番」で、学年の劣等生ばかりをA組に集めたわけではないだろう。
隣の席も後ろの席も、四方八方優等生で囲まれた私は、A組では劣等生だった。

高1までは、授業も真面目に聞いて、意欲的に学業に励んでいた。
美大へ行きたくて、その下準備を着々と進めていたのだから。

あの「邪魔」さえ入らなければ、私の高校生活は180度変わっていただろう。

< 3 / 21 >

この作品をシェア

pagetop