不器用な僕等の唄を

視界の隅を蜻蛉(トンボ)が通り抜ける。

そっちに目がいった。

『…浮気もごめん。』

そう小さく言った誠に、笑った。

「髪、いつ染めたの?」

『先月くらい。』

「彼女、同じ学校?」

『違う学校。バイト先で知り合った。』

一問一答を続けて、笑った。

「色々ありがとう…。あたし、もう行く。」

電子掲示板に『まもなく電車が参ります』と表示される。

『こちらこそ、ありがとう。茉莉のことはきっと忘れない。』

“きっと”って何よ。

『でも。』

気がつけば、蜻蛉はもういない。



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