【僕らの撃退大作戦】
男は軽く顔を伏せ気味にしていて、タカヤからは表情が見えなかった。
膝部がテカテカに光ったスラックスを履き、煤けた色のポロシャツを着て、片手をポケットに突っ込んだまま立っている。
決してこぎれいとは言えない風貌だ。
珍しくATMには誰一人並んでないというのに、機械に近寄る風でもなく、
こちらに来る素振りを見せるわけでもない。
どうも支店に用事のある客ではないようだが、ここはやはり声を掛けておくべきだろう。
そう判断したタカヤは、にこやかな対外用の営業スマイルを顔に浮かべ、丁寧な口調で男に声を掛けた。
「お客様、何か御用ですか?」
すると、こちらが驚く程にビクッと身体を震わせた男は、意を決したように小さく頷いた。