【僕らの撃退大作戦】
当のタジマ次長は検印席で、丸めた背をこちらに向けながら仕事をしているのが見える。
もうすぐ定年間近で、ササキより10歳近く上だが、年をかさに着ることもなく温和な性格だ。
今までも、自分より年を重ねているものが部下で仕事がやりにくいこともあったが、タジマに関しては今のところそういうものは感じたことがなかった。
視線をタジマから顧客ロビーへ移す。
ロビーには両替待ちの顧客が一人、腰掛けていた。
支店の向かいで弁当屋を営む、中年の女性だ。
中国だったか韓国だったか、とにかく日本人ではないらしいと営業係から伝え聞いていた。
日本語が怪しい時もあるが、いつもにこにことした清やかな女性である。
まだ弁当を買いに行ったことはないが、毎日両替に来るから自然と顔を覚えた。
日本語が読めないのか、雑誌や新聞には目もくれずに、いつも顔を上げてにこにこと行員の仕事を見ているからでもあるが。
しかし今日はその笑顔もなく、不安そうにジッと一点を見つめていたのがササキは気になった。