剣と日輪
 迷惑な話だった。現役の自衛隊幹部に、特攻テロの後押しをせよ、と公威は暗示したのだろう。
(三島は俺を特攻テロに巻き込む気なのか)
「からっ風野郎」
 をノリノリで歌い上げる公威に、山本一佐は暗流のさざめきを聞き取っていたのだった。
 必勝達祖国防衛隊のメンバーは、亜細亜大学を退学して憂国活動に専心する道を選択した田中が購入した、三十万円もする脇差等、各々が短刀を持ち寄り切腹の練習を始めた。
「死」
 を前提に腹切りの稽古に余念の無い不気味な祖国防衛隊に、渉外局長として立命館大一年の倉田賢司も加わった。尤も倉田は近畿在住なので月に何回か上京するだけだった。主に関西での渉外活動を、委任された形である。
 三月の楯の会第三期生の自衛隊体験入隊には、五日間のリフレシャーコースも組まれていた。必勝達二十四名がその訓練に参加している。無論公威は隊長として今回も加わっていた。
 体験入隊を修了し、晴れて楯の会隊員となった早大の後輩でもある鶴見に、必勝は大学の先輩としてアドバイスをした。
「三島さんに命を捧げますって手紙出せ」
「何故です?」
「お前は命賭けてないのか?楯の会と祖国防衛隊に」
「賭けてます」
「じゃそうしろ」
「はい」
 鶴見は必勝の忠言に従順に、
「三島先生に私の命を捧げます」
 と認めた手紙を送付した。けれども必勝の時のような反応は、公威から返って来なかった。必勝は訝しがりながらも、
(三島さんは、俺だから参ったのか)
 と面映い思いをしたのだった。
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