剣と日輪
 と大喝した。
 中辻は、
「若し今資金援助を断れば、論争ジャーナルは倒産するしかない」
 と抵抗した。萬代も、
「貴方は我々に路頭に迷えと言うのですか」
 と悲痛な叫びを上げた。
「そんな事は言ってはいない。君達には魂がないのか?体さえ保たれれば、中身はどうでもよいのか?田中は論争ジャーナルと楯の会のパトロン気取りでいるんだぞ。彼の意のままに論争ジャーナルと楯の会は動いている、と世間に思われていいのか?自分はパトロンだ、と言触らすような輩の援助を、私は君達に受けて欲しくない。君達を通じて楯の会までもが田中の操り人形だと思われたくない。楯の会は純粋な国士の集まりなのだ。その栄誉を汚すような隊員は、要らない」
 公威は二人の差迫った事情を知らない訳ではない。だが武士にとって、
「誉」
 こそ至高であり、生活苦などよりも大切な寄る辺なのだ。存在価値そのものと言っていい。
「貴様等は武士ではないのか」
 そう問いかける公威と中辻、萬代の胸中に、過去の出来事が去来した。
 昨年二月二十六日、銀座の小鍛冶ビル内育誠社内にある論争ジャーナル編集部で、公威、中辻、萬代等十七名の祖国防衛隊の面々が集い、血判状を作成した際の熱誠(ねっせい)である。血判状には公威の血書で、こう記されてあった。
「われわれは祖国の文化と歴史の持続性へのいかなる脅威に対しても、剣をもって起つことを大和魂をもって誓う」
(三島由紀夫「日録」より)

 あの頃公威と中辻、萬代は三本の矢のようであった。それが最早分裂の憂目にあるのだ。田中清玄なる怪人物の介入によって。
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