剣と日輪
 八月二十三日日曜日、必勝は兄治の長子で小学生の裕司と共に、上田家の玄関に立った。夕食の準備をしていた牧子がエプロン姿で必勝に、
「茂は一寸買い物に出掛けてる。直ぐ帰ってくるから、ついでにご飯食べて待っとけば?」
 と昔のように提案した。
「おう、必勝君か。上がっていけ」
 牧子の父利夫も相変らずだ。
「サザエさん」
 一家のような、ごくごく一般的なファミリーである。
 牧子は必勝と茂が海水浴に行った簿夕(ぼゆう)茂から、
「まかやんが、三島由紀夫を独りで死なせられんってゆうとった」
 と聞かされ胸騒ぎを覚えていた。
 牧子は昨年十一月テレビで、
「楯の会一周年記念パレード」
 の先頭を切る制服姿の必勝を観賞してから、
(まさかっちゃんはどうなってしまうのか)
 と心配でならない。この際色々問い質してみたかった。
 必勝は、
(不味い)
 と感じた。このまま上田家の食卓に上がれば、あらぬことを口走らずとも、気心の知れた人達だけに、気取られそうであった。牧子と食事をしたかったが、
「最終計画」
 の片鱗を覚られては、公威に申し訳ない。
「ああ残念。もう食べてきた」
 必勝はきょとんとしている裕司の両肩を持ち、
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