剣と日輪
 必勝は天が炎陽で今日の門出を祝ってくれているような、そんな気がして、ファイトを漲(みなぎ)らせたのである。

 小川、古賀、小賀の三名を乗せたトヨタのコロナは、午前九時過ぎに新宿西口の首都高速副都心ランプ入口の、合流地点に差し掛かった。
「森田だ」
 小川が手を振る必勝を見つけた。
「お早う」
 古賀が車外へ出、助手席のドアを開けてくれた。
「今日の主役だからな」
「有り難う。いい朝だな」
 必勝は、
「昭和維新」
 に命を捧げた陸軍青年将校の如く、威厳に満ちていた。
「今外から見て気付いたが、一寸車が汚いぞ。晴の日に相応しくない」
「分かった。俺もそう思ってた。ガソリンスタンドに寄って洗車してもらうよ」
 小賀の提案に全員賛同した。
 コロナは一旦首都高に入り、荏原ランプから第二京浜国道へ出、ガスステーションに寄った。洗車の間、小賀は小川と古賀、そして自分の家族宛の文を、スタンド側のポストに投函したのだった。
 公威が、
「豊饒の海」
 を擱筆したのは、昭和四十五年十一月二十五日木曜日午前零時だった。作家としての己を終えた公威は、威一郎と紀子の部屋を覘(のぞ)いてみたくなった。そっとドアを開けてみると、二人ともすやすやと夢寐(むび)の床にあった。公威は愛息と愛娘にお休みのキスをして回ったのである。寝入っている威一郎に公威は、
(後を頼む)
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