剣と日輪
「だったら来るなよ」
 高原の罵声が飛んだ。
 太宰は亀井と諸生の中間に眼窩(がんか)を置き、
「そんなこと言ったって、こうやってここに居るんだから、やっぱり好きなのさ」
 と断定した。
「なあ、そうだろう?」
 公威はつい太宰の端正(たんせい)な、喜懼(きく)している口元に引き摺(ず)られ、苦笑してしまった。
「そうだよな」
 太宰は理解しあった者同士、という風な流れを自作し、さらりと切り抜けた。そして他の話柄(わへい)を皆に提供して爆笑をとり、公威の乾(けん)坤(こん)一擲(いってき)等無かったかのように、空気は元の鞘(さや)に収まった。
(巧みな話術だな)
 公威はそう軽慢(けいまん)しつつ、衆目(しゅうもく)の中に、完全に白眼視(はくがんし)されている一己(いっこ)の立位置を図った。太宰に信従(しんじゅう)している連中には、公威は太宰に適当にあしらわれた無礼者位にしか映らなかっただろう。
「ところで、君は何者だ?」
 太宰は突如、公威に問うた。
「彼は、三島由紀夫というペンネームで、人間に煙草という作品を発表しています」
 公威が押黙っているので、傍(そば)にいた中村稔が、そう代弁した。
「ミシマユキオ?」
 太宰は小首を傾げている。
「全くしらねぇな」
(知らいでか)
 公威は露骨に不快感を表示している。太宰は公威の苦虫を潰したような面構えに溜飲(りゅういん)を下げ、又雑談と深酒に
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