AVENTURE -君の名前を教えて-
『間もなく、11時20分発…』

館内アナウンスが流れて、私ははっとする。自分達が乗らなくてはならない便の搭乗手続きが始まる。手荷物は、すでに自分のものは預けてしまっているから問題はないのだが。

「手ぶらで来るってどういう意味?行く気、あんの?」

人が行きかう空港のロビーで、私が嫌みったらしく聞いてみると、アイツは溜息をついて応えた。

「ない」

一言、キッパリ。
その言葉に、私は思い切り眉間に皺を寄せた。

「ないって…どういうつもり!?」

思わず声を荒げる。
近くを通りかかった人が、怪訝そうな顔でこっちを見てくる。

恥ずかしいとか、思ったりもしたけれど。
でも、そんな事よりも。
アイツの言った一言が信じられなかった。

「どういうつもりもなにも…そのまんまだけど」

頭をぽりぽりとかきながら応えるアイツに、私のイライラは限界に達した。

「ふざけないでよ…1年も前から約束してたのに、なんなのよ、それ!」

ぎりっと握っていたこぶしをさらに強く握り締める。

「しかもなに?当日、出発直前に行けないって…意味わかんない!」

私は、涙がこぼれそうになるのを必死で堪えた。


< 4 / 242 >

この作品をシェア

pagetop