モザイク
丹沢と桜井は大学でずっと同じサークルにいた。その付き合いが、今でも続いている。だから、事あるごとに丹沢は桜井に頼み事をしていたが、さすがに今日ばかりは無理そうだ。
「いったい、どんな症状なんですか?」
「それが視界がモザイクに見えるって言うんだよ。ざっとテストした限りでは、あながち嘘をついているようにも思えないし・・・。それでここまで来たってわけさ。」
それを聞き、桜井の表情は一変した。
「モザイクですか?」
「あぁ、モザイクだ。それがどうかしたのか?」
「今、モザイクの話をしていたばかりなんです。」
丹沢は驚きを隠せなかった。モザイクが見える患者が、ここにもいるのかと思ったからだ。
「どう言うことだ?」
「説明するより見てもらった方が早いでしょう。あの子たちは、そこのソファにでも待っていてもらっていて下さい。」
「わかった。」
ふたりに事情を話し、丹沢は桜井のあとをついていった。

「桜井です。開けて下さい。」
桜井が扉の前でそう言うと、重々しい白い扉がゆっくりと開いた。横には“関係者以外立ち入り禁止”と書いてある。ただ事ではないものを感じた。
中からひとりの男が出てきた。そして、丹沢の方を見た。
「た、丹沢か?」
髭が顔を埋め尽くしている初老の男にそう言われ、丹沢は記憶を探った。しかし、思い当たる人物は見当たらない。
「どちら様ですか?」
「そっか、わからないか。俺だよ、神宮寺。忘れたか?」
その名前を聞いてピンと来た。大学の頃、天才と言われていた神宮寺。彼だ。しかし、学生の頃の面影はまったくと言っていいほどない。
「神宮寺?」
「あぁ、そうだ。」
「お前、ずいぶん老けたな。」
「ま、色々あってな。苦労は人を老けさせるのさ。それより入ってくれ。」
丹沢は入り口に書いてあった“関係者以外立ち入り禁止”が気になり躊躇した。
「いいのか、これ?」
指さし聞いた。
「構わないさ。ここの責任者は俺だからな。」
そう言われれば、何の躊躇もいらない。丹沢は部屋に入った。
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