モザイク
相反する世界
病院も、丹沢も、長沢も、佐々木もモザイクに埋もれた。
もう誰もそれが丹沢だと気がつかないだろう。もちろん長沢も、佐々木も気づかれる事はない。
ただ、それは普通の人間の目からすればだった。

モザイクが同調する。いくつもの四角が重なり始めた。
「えっ。」
その変化にはじめに気がついたのは長沢だった。カーテンで閉め切られた部屋の様子が、ぼんやりとではあるが感じ取れてきた。
「あのさ・・・。」
佐々木に声をかけた。しかし、小さないびきが聞こえるだけで返事はない。それを聞き、長沢は大きく息を吸い込んだ。
「佐々木っ。」
今度は吸った息を思い切り吐き出し、大きな声で佐々木の名を呼んだ。
「あ、うわっ、なんだ?」
まだ佐々木は気がついていない。自分の周りに起きた変化に。
「長沢、なんだよ。」
そう言って彼女の方を見た。
「ねぇ、気づかない?」
「何が?」
長沢は佐々木が自分の方を見た事によって、佐々木にも自分と同じ変化が現れていると直感的に感じた。
「佐々木、今、私の事わかるでしょ?」
「当然だろ・・・。あっ・・・。」
佐々木もさすがに気がついたらしい。
「み、見える・・・。」
「そう見えるの・・・。私たち治ったのよ。」
長沢は喜んだ。当然、佐々木も喜んだ。
「やった!」
思わず長沢と佐々木は抱き合った。そこで違和感を感じた。お互いの体が固いのだ。
「なんだよ、これ。治ったんじゃないのかよ。」
「そうだよね・・・。治ったと思ったのに・・・治ってないの?」
なまじ景色が普通に戻っただけに、その落胆ぶりは尋常でなかった。

コンコン。その時、ふたりのいる病室のドアを誰かがノックした。ドアを開けたのは桜井だ。
「きゃあああああ。」
長沢は叫んだ。
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