モザイク
逆境
桜井はモザイクの欠片を貼り付けたメガネをかけている。神宮寺はモザイクになっていないから、欠片を通して見ると逆にモザイクに見えるはずだ。その神宮寺の姿が足下から見え始めた。
「先輩・・・?」
自身の変化は、神宮寺も突然感じた。なぜなら景色が一変したからだ。
「くそっ。」
サングラスをはずし叫んだ。そして立ち止まった。
「桜井、わかるよな?」
「・・・はい。」
桜井の目には涙が浮かんでいた。
「どうやら俺もモザイクの世界の住人になったらしい。」
「はい、このメガネを通して先輩の姿が見えます。」
「つまり、無事なのはお前だけって事だ。」
言葉の重さに、桜井は何も答えられなかった。
「丹沢はいなくなり、俺がこんな様じゃな・・・。お前がしっかりしてくれよ。」
まだまだ新米気分が抜けない桜井には、その重責に堪えられそうになかった。
「無理ですよぉ。そんなの僕には無理です。今だって神宮寺さんがいると思っているからこそ、ここに留まっているようなものです。一人なら・・・とっくに逃げ出してます。」
「そんな事言うもんじゃない。俺たちは医者だ。この奇怪な病気を止められるのは、俺たちだけだろう、違うか?」
「そうかもしれません。しかし・・・。」
そのまま桜井は俯いた。
「しかしとか言うんじゃない。」
無理だ。その証拠に、桜井の涙は床へと落ちていった。

音がした。ガラスの上に、ビー玉を落としたような音だ。
「ん、何の音だ?」
神宮寺は音の位置を探った。しかし、わからない。すると、まるでヒントを与えるかのように、もう一度同じ音がした。今度は注意深く聞いていたせいもあって、どこから聞こえてきたのかがわかった。桜井の足下だ。
「桜井、お前何か落としたか?」
神宮寺は聞いたが、桜井には心当たりがなかった。
「いえ、何も・・・。」
「じゃ、今の音は・・・。」
また聞こえた。今度は連続で二回だ。
「せ、先輩・・・。」
「なんだ?」
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