妖士(ようし)

あれは何だろう・・・。

闇にうごめく無数の影。

麗貴妃の背筋を冷たいものが走る。

あれは何・・・?

声に出して呟いたつもりだったが、彼女の喉は凍りついたかのようだ。

うごめいていた影の一つがぴたりと動きを止め、麗貴妃をかえりみた。

低い声が何かを言っている。

「ふ・・・うを・・・」

赤い眼が麗貴妃に注がれる。

「ふく・・・うを」

影達の激しい怒りと、憎しみを目の当たりにした麗貴妃は、ひくりと喉を引き攣らせた。

「ふくしゅうを・・・!」

「我ら一族を滅ぼした・・・!」

「許さぬ・・・!」

「復讐を・・・!!」

赤い眼が目の前に迫る。
骸骨のような、顔が怒りで歪み、血の涙を流している。

「い・・・いやっ!!」

肩をぐっと掴まれ、叫ぶと、体を揺すぶられた。

「初子!!」

疾風・・・助けて。

必死に手を伸ばすと、骸骨ではない、温かい手に包まれる。

「は・・・疾風・・・」

< 105 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop