アゲハチョウ1
蛍は嫉妬屋だ。蛍を頼らなかった為に、蛍は怒るのだろう。
蛍は私の役に立てないのが歯痒く、一番辛い事を知っている。


「蛍。」


蛍は怒ると、彼岸花の咲き誇る池の前にある縁側で、
不貞腐れるのが行動パターンだ。


案の定、蛍は黒猫の姿でそこに居た。


「…。」

「蛍。ごめんね。」


不貞腐れているその、小さな体を抱き上げて、
抱き締めた。蛍の体がピクリと反応した。


「蛍。許して。」

「姫…何故、馨に頼んだ?」

「蛍に頼みたかった。」

「では!!」

「だけど!!」


蛍が何かを言おうとしたが、私は敢えてそれを遮った。
蛍が言いたいことは分かる。でも、私にも言い分はあるのだ。


「蛍は前回私を庇った傷が癒えていないでしょう?」


そう。前回の地獄渡しで、蛍は私を庇って、怪我をした。
気丈に振る舞う蛍だが、人間では無い蛍でも、
あの傷を癒すのには、時間がかかる。


だからこそ、蛍より劣るものの、
次に長けている馨に命じたのだ。


「姫…すまなかった。」


蛍は私と向き合うと、そっと私を抱いてくれた。


「ううん。蛍。」


私は蛍を解放した。
蛍は何時もの無表情を崩して、私に笑ってくれた。
私にしか見せないその蛍の表情が、大好きなのだ。


「蛍。」

「何?姫。」

「怪我が直ったら、蛍にも頼みたいことがあるの。」

「姫の命なら、この命かけても。」

「命かけるほどではないけども。」

「そうか?」

蛍はすぐに無表情になった。
私は苦笑して、蛍の頭を撫でる。
サラサラの金の短髪が輝いて、とても綺麗だ。

「でも、蛍にしか出来ないこと。」

「全力を尽くす。」

「うん。だから今はゆっくり休んで。」

蛍だけでなく、他の子達もよく無茶をする。
本当は私の為になんてしてほしくないのだけども、
こればかりはなんとも出来ない。

私は蛍の機嫌が直ったのに、
ホッとして屋敷の奥に引き込む事にした。
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