成熟と化して


私の前に変な男が現れた
髪は黒、顔はまあまあ。体型も一般的で特に変わったところはないが、私は何かこの男に奇妙な違和感があった。
見かけの変じゃない、雰囲気だ。
人を疑ったことのない雰囲気。よく言えば純粋。悪く言えば不気味である。

この男が現れたのは、家のすぐ下。『待ってました』と言わんばかりに私に近づき、一目惚れとしただの電車でずっと見ていました、など聞いてもいないことをベラベラと喋り続けた。気持ち悪い

男はニヤついた顔で一通り話、最後に私に『好きです』と言った。

身震いがした。気持ち悪さからではない
同情からだ
"この人はきっと、人を愛する仕方が分からないんだ"

"だったら私が教えよう"

"でもその代わり私の欲しい物を買ってもらう"

瞬間的に3つのことを思い浮かび、私は『いいよ』と応えた。本心から。
男は嬉しそうに微笑むと、ポケットから連絡先の書いたメモを出し、私に渡して帰っていた

もし私が告白を断ったら、このメモはどうするつもりだったのか。
敢えてこの先は考えないことにした。

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