0-WORLD
だけど時すでに遅し。
俺の耳に歓声という雑音が戻ったのは、俺の両手がひとりの人間のいのちを奪った時だった。

俺はうずくまっているらしい。彼の死体は俺の視界と平行に、真っ直ぐ倒れていた。よかった。俺がそう思ったのは、彼がちゃんと人間の形を模したものだったからだ。


「勝者、ゼロ!」


四六時中のポーカーフェイスは、この時だけ崩れる。ジャッジは声をあげステッキを振りかざした。会場が割れるほど、沸く歓声。俺は雑音の中ひとり居た。そう、たったひとりだ。


「どうして」


急に場面が切り替わり、俺はあのやぐらでユリィと共に居た。
ユリィは泣いていた。情緒不安定に、長いストレートの髪も乱れていた。


「こんなにボロボロになってまで、あなたが闘わなきゃならないの…?」

「知るか。ただひとつ云えるとしたなら、俺の中の邪悪が云うんだよ、殺せ、ってな」


ユリィの前では冷徹な俺だった。
捨て子の俺の姉がわりのように俺を護り続けたユリィ。


ユリィは、わからない、という風に首を振り項垂れた。
わかるわけもないおれのきもちなんて。何れだけガキの頃から俺の世話をしてたって、お前のような上等人間には解る筈がない。

自らの親に手をかけた、小さい小さい狂人の俺なんて、お前にわかるはずもないんだ。
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